最終興行収入が250億円を超えた、映画『君の名は。』
海外での評価も高く、日本のアニメーションのすごさを更に広めた映画ですね。
男女の身体が入れ替わる、という設定は目新しいものではありません。
ですが、そこを丁寧に描いた上で、飛躍的に展開されていく物語に惹き付けられた人も多いでしょう!
私も「そうだったのか!」と驚いた一人で……。
もう一度観たくなってきた(笑)
公開後、ネット上でも感想や考察が飛び交っていましたね。
劇中で出てくる『口噛み酒』も注目されました。
炊いた米を口で噛んで容器に吐き出し、放置することでお酒に変えるものです。
ヒロインの三葉(みつは)は巫女として、『口噛み酒』を造り、奉納します。
「三葉の口噛み酒を飲んでみたい!」
というような妄想ツイートがたくさんあげられ、中には、
「瀧くんの口噛み酒なら」
という妄想まで!
※瀧くんは口噛み酒を造っていません(笑)
実際はどういう味になるのか、気になる人も多かったのでしょう。
YouTubeでは、口噛み酒を造ってみたという動画も上げられています(閲覧は自己責任で)。
また、映画にちなんだ、口噛み酒「風」のものまで販売されてたり。
今回はそんな「口噛み酒」にスポットを当てていきます。
口噛み酒は『もやしもん』にも登場していた
『君の名は。』で脚光を浴びた口噛み酒ですが、それより前にとあるマンガでも出て来ています。
2004年に青年雑誌『イブニング』で連載がスタートし、アニメ、ドラマ化された『もやしもん』というマンガです。
菌を肉眼で見ることができる主人公を中心に、農業大学のキャンパスライフが綴られる作品。
デフォルメされた細菌たちがしゃべるというユニークな設定です。
発酵食品や日本の農業事情なども題材になっています。
この作品内で、日本酒にまつわる話として、『口噛みの酒』も出て来ます。
また、口噛み酒は日本だけでなく、世界各地でも造られています。
簡単にですが、その歴史を紐解いてみましょう。
縄文時代後期から実在していた口噛み酒
古代日本(大和)や、アイヌ、沖縄、奄美諸島で造られた口噛み酒。
他にも、中南米やアフリカなどにも痕跡が残っています。
初期のクメール人の国「真臘(しんろう)」では、女性が造っていたことから『美人酒』とも呼ばれていたそう。
穀物、イモ類、木の実などを噛むことでも造れ、人為的に造るお酒の発祥とする説もあります。
日本酒(どぶろく)のルーツとも言われるようです。
※諸説あります。
口噛み酒のメカニズム
そのメカニズムはと言うと……。
米を噛むことで、唾液中のアミラーゼがデンプンを糖化。
それを吐き出し溜めておくと、自然界にある酵母が糖を発酵させ、アルコールに変わっていきます。
前述した『もやしもん』では、菌たちが「かもすぞ」「かもせー」というセリフを言うことでも知られています。
漢字に直すと「醸す」ですね。
この「醸す」の語源は、「噛む」から来ているという説。
また、発酵させることから、カビさせる「かびす」から来ている説などもあります。
日本人とお米
余談ですが。
額の横の「こめかみ」は「米噛み」から来ているという話もあります。
お米を炊いて食べるという歴史が始まる以前、生米のまま食べていた時代。
生米は(当たり前ですが)硬いので、すごく良く噛む。
そのとき動く部分を「こめかみ」と言うとも。
それくらい、日本人とお米の関係は深く、古いものなんですね。
酒造りは稲作と共に始まったとも言われます。
稲の存在は縄文時代後期にもみられたようです。
弥生時代に作られた水田の痕跡もあります。
口噛み酒は風土記にも登場
また、『大隅国風土記(おおすみこくふどき)』の中に、男女が同じ場所に集い、一緒に造り溜めて飲むというような表記があるそう。
口噛み(くちもみ)酒と呼ぶそうです。
風土記は奈良時代に、国府によって、当時60余りあった国々に対し、地名の由来や特産物を報告するよう命じられたもの。
日本の中に「国」がそれぞれあった時代です。
一般的に、口噛み酒は女性(巫女や処女)が造ることで知られています。
神様に奉納するお酒としての役割です。
ですが、すべての土地で、始めからそうだったというのではなく、時代を経て習合されていったのでしょう。
時代が下るにつれて口噛み酒は消えていきます。
沖縄は、独自の文化もあり、近代まで祭事用として造られてもいたようです。
伊平屋島、宮古、八重山の一部などもそうです。
実際に造るには?法的にはOKなのか
口噛み酒がどんな味なのか、興味が沸いた人もいるでしょう。
実際に造って飲んでみたという動画も上げられています。
造り方はシンプルで、
- 炊いたお米を良く噛む(米の形がなくなるまで)
- 壺に吐き出す(いっぱいになるまで繰り返す)
- ゴミが入らないように覆いをして寝かせる
です。
温かい場所で寝かせると、一晩ほどで出来るそうです。
(冷蔵庫に入れると発酵が進みません)
この口噛み酒、個人で楽しむ目的なら、違法行為ではありません。
自己責任の部分です。
ですが・・・
『販売すると違法』です!
営利目的になると罰せられます。
酒税法では、アルコール分1%以上の物は「酒」の扱いになります。
その場合は、製造、販売の免許がなければ違法です。
『君の名は。』の中でも、三葉の妹が、巫女の口噛み酒を商品にして売ったら、と言いますが、三葉は「酒税法違反!」と答えています(^_^;)
とはいえ、口で噛んで一晩寝かせただけなら、アルコール分が1%も出ないのが実情のようです。
お酒とは言えない「飲み物」(?)ですね。
もちろん「飲料水」としても売れません。
それはそれで、別の法律がありますし、まず衛生面で引っかかります。
まぁ法的にOKでも、自分で(他人のでも)造って試したくはないな、という人もいるでしょう。
私もその一人です(笑)
口噛み酒の味は、どぶろくや、沖縄の「ミキ」と呼ばれるものが近いそう。
そちらを飲むのもアリですね!
どちらも通販サイトで売っています。
『聖地の酒』で映画の雰囲気を味わえる!
実際の味云々ではなく、映画の雰囲気を楽しみたい人も多いでしょう。
というか圧倒的にこちらが大多数だと思います。
『君の名は。』の舞台となった飛騨市にある蔵元、渡辺酒店の「聖地の酒」がオススメです。
もちろん口噛み酒ではないのですが、劇中に出てくるような白い瓶子がポイント。
テンションが上がること間違いなしです!
中のお酒は飛騨産の酒米「ひだほまれ」を使用。
仕込み水は、不老不死の水と呼ばれる、自家井戸清水。
ふくらみのある味わいの、立派な純米吟醸です!
映画ファンによる聖地巡礼でも人気が高く、発売当初は注文が殺到したそう。
現在は詰め替え用のボトルや、巫女ラベルも販売されています。
通販でも買えますよ!
ちなみに公式のコラボではないので、巫女ラベルのイラストは、映画とは別物です(笑)
終わりに
お酒は『人類の友』と言われるほど、長い歴史を持っています。
悠久の歴史に思いを馳せながら、現代の日本酒を飲むのも一興ですよ!